講談師・神田陽司のテキストブログ


by yoogy
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この大変な時に「宇宙」だ…と…?

JAXAの講演会を聞いてきた。

会場は満員。二部制にしても入りきらず、USTREAMの中継も入っていた。


金星探査機「あかつき」のプロマネ中村正人教授と、「はやぶさ」のプロマネ、時の人となった川口淳一郎教授。

もう第一線で責任者となる人が「宇宙戦艦ヤマト」だの「アンドロメダ」だのといった単語をはさんでくるので(しかも正確な使い方で)ああ、やはり21世紀は来ていたんだな、と実感した。

自分は金星改造計画(テラフォーミング)に必要な水が「あかつき」の再投入と観測が成功すれば再発見されるの可能性はないか? というかなりアナクロで浪漫主義な質問をしたが、案の定会場の笑いをかった。まあ、少しは共感もまじっていた気がするので…。

川口先生の話は震災のお悔やみから始まり、途中何度か自作の短歌が出てくる。ああ、やはり講談で人情味のある「おかしら」とするにふさわしい人であったと再確認。

講演の中で、いかに小惑星探査が地球上の科学に役に立つかを強調されていた。たとえば惑星の組成がわかることは地震科学にもつながるし、原発の危機管理の方法論も宇宙科学の中に多くの示唆があると。

それでも・・・おそらく、自分がもっと震災に近いところにいて「宇宙」の話を、本職の人間は別にしても、目を輝かせて聞きに行く連中を見たらタイトルのように心で吐き捨てるかも知れない。被災者、ではない、「もっと震災を近くに感じている」たとえば去年「はやぶさ」の講談を書かなかった自分のような人間が。

しかし…今日、「宇宙科学」には宇宙の探求以外の使命を感じたのだ。

科学がもたらす恩恵をことさらにあげなくても、いまこうして、パソコンで文章を作りそれを発表している、そのすべてが科学の果実である。われわれが存在している基盤のすべて、たとえ電気もガスも通らず、住民がゴムでできた人工の足の裏すらつけていない地域の民ですら科学の影響を受けていないものはない。

その最大のものはやはり兵器とエネルギーで、人を殺す仕掛けと重いものを動かすカラクリは人類をこんな遠いところまで運んできた。そして、その実利性ゆえに常に欲望を載せて。

今日、原発の是非を口にするつもりはない。だが、原発がもたらす果実は禁断の実というに値するほど美味である。脳内の「危険」というキーワードをすべてマーカーで塗りつぶしてもなお、そこに人間のありとあらゆる欲望を呼び寄せる甘い香りがただよっている。これさえあれば貧困から脱却できる、これさえあれば隣国より強くなれる、これによってどれほどの人を救うことがでるだろう。魔法の指輪を求めて人々は血眼で争うことになる。そして農民は畑を忘れ職人は技を忘れ寺院には蜘蛛の巣がはることになる。

「宇宙科学」がもたらす実利は原発に比べてなんと少ないことだろう。みないまはまだ、必死に畑を耕し、純粋な農夫たちが目を輝かせて苗木を植えているところだ。川口先生ですら「フールツは遠い将来のことでしょう」と言ってはばからない。

ともすれば「ムダ金だ」と叩かれる。あの健気な孝行息子(はやぶさ)がいなければ間違いなく仕分けされていた。果ては武器転用だ、軍事応用だろうと痛くもない腹をさぐられる。

しかし、実利が少ないからこそ、他の応用科学にはない進歩を見ているのではなかろうか。冷戦時代の巧妙争いもあったが、月の石が名誉以外のどれほどのものを地上に運んだか(もちろん純粋な科学的成果はのぞいて)。はやぶさが命と引き換えに持ち帰った微粒子が、他の衛星がもたらした数枚の写真が、人々の世界観に影響する以外のどれほどの実利をもたらしたか?

だが、そこが素晴らしいのだ。

目の前に果実がぶら下がっていたら、ISS(国際宇宙ステーション)のような理想的な協調体制は生れていただろうか。はやぶさが微粒子ではなく巨大な資源を持ち帰るほどの力持ちだったら人々は涙する前にお土産を奪い合ったにちがいない。

そして、そういった天空に近い分野だからこそ、科学は純粋に発達していけるゆけるのではないか? そこから下りてくる技術を、より実利をもたらす科学に応用することが(危機管理システムの例のごとく)もっとも正しいことのように思われる。

もちろん科学技術はあらゆる面で諸刃の剣であることを認めつつ、人を殺す武器を作るための科学から最も遠く、過激な表現をするならば「(禍々しき)神を殺すための」科学がそこにはあるような気がする。

エマニエル・カントは言った。「この世で素晴らしきものは、天空に輝く星とわが内なる道徳律である」と。直感は常に正しい。不純なもの以外は。





(補足・カントはもちろん哲学者だが、「カントラプラス星雲説」として天文学にも足跡を残している)。
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by yoogy | 2011-04-09 21:59 | レビュー