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講談師・神田陽司のテキストブログ


by yoogy
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『これから「正義」の話しをしよう』(マイケル・サンデル)【1】

第一章「正しいことをする」

・・・実際、このレビューを書くのは昨日書いた通り「必要なお勉強」ではあるのだが、やはり現実逃避でもあるのでけっこう長期にわたることになりそう。イッキ読みはもったいないので。

2004年、アメリカにハリケーンがきた時、現地では物価が10倍以上になり、便乗値上げが横行した。「横行」と書いたがこれが無条件に「正義に反する」という判断は実は誰にもできるものではない。2ページ目にはその理由が書かれている「値上げのおかげで国中から物資を売ろうとする人間が集まり、結果として現地の人々は救われる」と。

(ああ、くそう。このあとかなりの長文を書いたのに、たったひとつのキーの押し間違い全部消えてしまった)(その内容は、自分が阪神淡路大震災似たヨウ経験をしたことだった)。

だが、その「市場」が機能するまでに数十倍に値上がりした生活必需品が最もまずしい人たちに届かないのは事実だし、それが生命の安全にかかわるケースもあるだろう。

さて、この時施行された「便乗値上げ禁止法」は正義か否か? あなたがフロリダ州議会の議員なら、この法律に賛成票を投ずるかどうか?

実は世の中で「正しく」行動するためには根本にさかのぼって考えることができなくてはならないということがわかる。

サンデル教授が話題になった時、ネット上でも「哲学なんて机上の空論」みたいな意見が多く見られた。「哲学は諸学の母」などとはなんという「現実」とかけ離れた物言いかと思われがちだ。だが実はその「現実」を考えるためにはやはり「根本にさかのぼって考える」必要がある。江戸時代のような安定した閉鎖社会ならばそうそう「正義」がゆらぐこともなかっただろうが21世紀の先進国では間違いなく「正義」についての哲学は必要となっている。それが今回のブームの本質であろう。

昨日書いた「線路上の五人を助けるか一人を犠牲にして五人を救うか」の問題は今日現実にある問題だ。アフガニスタンで一人の農夫を見逃したためにゲリラに戦友を皆殺しにされた兵士は農夫を殺すべきだったのかどうか。

現代の日本に生きていればこの兵士のような選択を迫られることはまずあるまい。だが、少なくとも国際問題を論じようとするなら、いや、たとえば選挙の投票行動ひとつにしても、やはり筋道を立てて「正義」について考えるよすがはあるにこしたことはないだろう。


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by yoogy | 2010-09-18 18:28 | レビュー