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講談師・神田陽司のテキストブログ


by yoogy
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『仁』の感想にことかりて

『仁~JIN~』第二話終了。
http://www.tbs.co.jp/jin-final/

「おれは、なぜこの時代に送られたのだろう。神は、おれに何をさせるつもりなのだろう」タイムスリップものではよくある主人公の疑問。しかし、わかる、自分には。この問いは何も異常な経験をした仁だけに向けられたものではないと。すべての「人」が問うべきものであると。

原作にはないキリスト教的な「神」というセリフの連発にも関わらず、そのバタ臭さ(この表現も死語だなあ)に違和感を感じたとしても、やはり主張のしっかりとした物語は素晴らしい。「道具立て」が「説教臭さ」を見事に相殺して全体を盛り上げている。ひとこでいえば、絶賛。

ところでこんなニュースがある
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「太陽電池の変換効率を20%から75%に改善。 東大とシャープが構造解明」なんというタイムリーなニュースなんだろう? これ、震災後に研究をはじめた訳じゃないよね? なぜ今発表されたの?
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今週の『仁』の概要。江戸に蔓延する「江戸病」=脚気の克服のため治療薬を作った仁がそれを皇女和宮に献上する。だが、陰謀に巻き込まれ投獄され、リンチにあう。治療やリアリティあふれる大牢の描写に視聴者が引かないか心配だ。

少々ネタバレになるが、この裏には幕府で長年医療を支配してきた「医学館」の陰謀が匂わせられている。実はいまよりずっと身分の低かった(認可制ですらなかった)江戸時代の医者にとって「奥医師」(大奥や将軍家を診療できる医師)になることは一大権力を握ることであった。鎖国状態で科学全般が停滞せざるを得ない江戸時代にあって彼らの出世の方法は医療技術の向上ではなく「処世術」でしかない。司馬遼太郎あたりを読むとそれこそ太鼓持ちと変わらぬほどに描かれている。

そこへ入ってきたのが西洋医学である。ペリーが来るまでは実質的な鎖国が続いていたが、それでも必要から医学書の輸入だけは許され、医師であるシーボルトなどは特例的に日本中を歩けた。まさしく「技術革新が必要から」体制を揺るがしたのである。

お分かりだろうか? なぜ『仁』の話に何の関係のもない太陽電池のニュースを挿入したか?

いますぐに原発をすべて捨て去ることなど現実的ではない。またこれからの日本のことを考えると安易に廃止の方向を打ち出してはいけないいうことは十分に理解できる。しかし、果たして原子力は、現代の「奥医師」でなかったと言い切れるだろうか。

自然エネルギーに代替を、という話題をネットでふると「頭の中お花畑だろ」と反論される(何も原発を廃止しろ、なんて言ってないにもかかわらず)。「技術的にも未熟なものを代替にできるわけがない」と実にまっとうな反論である。それを認めた上で、では、「革新的な技術の進歩を、半世紀前の技術である原子力が体制化することで疎外するようなことはなかっただろうか?」と問いかけると誰も理解しない。

『仁』の原作は決して「東洋医学」=遅れた保守勢力、「西洋医学」=革新勢力という構図を煽りはしない。むしろその統一をめざす。それは原作を最後まで読むと胸に染みてよくわかる。テレビではわかりやすさを求められるためそこが単純化されないか心配だ。そして自分が主張したいこともそこではない。


ううむ。なんとなく、黒鉄さんの「千思万考」みたいになってしまった。
by yoogy | 2011-04-25 11:56